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VANTAN MESSAGES

バンタンは、好きなことの解像度を上げるための場所。FutureEdu 代表理事Peatix.com 共同創業者 竹村詠美 バンタンは、好きなことの解像度を上げるための場所。FutureEdu 代表理事Peatix.com 共同創業者 竹村詠美

「Peatix.com」共同創業者で現在は教育業界で創造的な学びを広める活動を行う、竹村詠美さんをお迎えしました。竹村氏が考える、これからの教育の在り方とはどのようなものなのでしょうか。

「20年ほど、テクノロジー業界に身を置いてきました。日米の先端的な企業やスタートアップで仕事をする中で、『テクノロジーがすべての業界のインフラになる社会』のイメージは、早くから見ることができていたと思います。そんな中、教育が旧態依然としていることに疑問を感じていました。いまの教育は、過去の叡智を学ぶことに偏っているので生徒が学びへの目的や、社会の関連性を見出だしにくいのではないか?5年ほど前に抱いたそんなモヤモヤが、教育に関わり始めたキッカケです」

アメリカは、
失敗の経験は好意的に
受け止められる

『Most Likely to Succeed』アンバサダーとして、対話の場を持つこと、ワークショップや教員研修にも力を注がれていますね。さまざまな教育現場をご覧になっていると思いますが、日本の教育についてはどのような印象をお持ちですか。

「日本の学校の先生はすごく頑張られていますし、文部科学省の学習指導要領が目指している方向性も、社会との繋がりを意識し、いかせる知識、スキルや資質を育むことにも注力をした良い内容です。とはいえ教育現場は、まだまだ新しいことをはじめることへの不安や恐れも大きい状況で、今まで通りのやり方を変えたくないという空気感もまだまだ根強いです。これは今の社会状況を反映していると思います。
アメリカでは起業に失敗しても、本人がその挑戦から得たことが事業へ貢献につながると判断されれば好意的に捉えられます。一方、日本では起業で失敗した経験をポジティブに受け止め、その経験から学んだことを評価することが当たり前でないため、起業をする若者が国際比較でもとても少ないです。日本の大企業では失敗が奨励される、もしくは失敗がプラスに評価されることはあまり聞きません。『失敗すると、後がないのでは?』と心配しすぎると二の足を踏むのも当然ですよね。
日本の学校教育も似た状況があります。時間を要する探求、プロジェクト型学習など社会と接続した学びを取り入れていたいと考えても、『入試結果に悪影響がでるのではないか?責任が問われるよりは、今まで通りの方が安心』という考えに陥りやすいので、一歩を踏み出しづらいところがあります。

このような背景から、現在探求やプロジェクト型学習に熱心な学校は、私学の中高一貫校や、カリキュラムが探求的な内容となっている国際バカロレア教育を実践する国際バカロレア認定校が中心となっています。中高一貫の場合、中学から徐々に探求的な学びを継続して実践できるので、土台が十分育まれていない中、高校でいきなり導入をする負荷が減ります。すなわち、学校としても冒険しやすい環境が整っているのです。中学と高校とが分かれているとあっという間に受験なので、中学で経験していない生徒にとっては、探求的な学びを身につける期間がグッと短くなります。小中高連続した形で『探求』への土台を育まないと、なかなか目指している教育効果が出づらいところが現在の学校システムの課題です」

プロ講師の生徒への刺激は、
スキルだけではない。

バンタンの特徴のひとつに、プロ講師による「実践教育」があります。

「中高生になると、学びの目的や社会との関係性を理解し、自らの成長とつなげて捉えることが、学びへの大きなモチベーションにつながります。なので、10代からプロフェッショナルの仕事、優れた仕事の基準を目の前で知ることは、刺激になるだけでなく、自分の目指すものを取捨選択する機会なのです。プロ講師の生徒への刺激は、スキルだけではありません。プロフェッショナルのあり方のロールモデルとして生徒さんと接していただくことの意義も大きいですね」

バンタンの生徒と講師との
フラットな関係は健全

なるほど。バンタンでは、生徒のことを生徒とは呼んでいません。社会の一員であり、これからの社会を担う「メンバー」と呼んでいます。教えるのではなく、自ら学び取って欲しいという考えに基づいています。

「まず、上下関係がフラットということは、縦の序列を強調する組織と比べると生徒の心理的安全性が高く、生徒も『講師が思っていることとは、かけ離れているかもしれないけれど、言ってみよう』と発言しやすくなります。一方、権威的な講師の場合、講師の狙いを理解できる優秀な生徒であればあるほど、自らの考えよりも、講師の希望を優先しがちです。ゲームの攻略に近い取り組み方です。そうなると出来るだけ効率よく講師の希望にあった作品を提出しようという発想になり、自らの発想や考えを深める方向性から外れてしまいます。
また、独自の発想や意見を持っていても、発表するチャンスを押し殺してしまっては学びの機会を失います。自分の考えていることをアウトプットして、フィードバックを受ける学びのサイクルを健全な形で回し続けることで学びの質は深まります。このようなサイクルを継続的に回してしていくためには、講師と生徒は対等な関係であったほうが良いのです」

バンタンは、一人ひとりが
自分のキャリアを
デザインすることを
応援している

不確実で変動が激しい時代。幸せに生きていくためにはどのような教育がいいのでしょうか。

「OECDのFuture of Education and Skills 2030 レポートでは、社会の『ウェルビーイング』を目指した学びが提唱されています。ウェルビーイングを実現するためには、一人ひとりが充実した社会生活を送れるように、自分のキャリアをデザインする力を身につけることが大切です。バンタンも、生徒が目的意識を持ってキャリアをデザインすることを応援しているスクールで、これからの時代のニーズに合致していると思います」

進学前に、「専門校に進学するの?ファッション業界は大丈夫?」など、ご家族からストップがかかるケースもあるようです。

「大学にとりあえず行って欲しい、仕事は公務員のような安定的な仕事が理想的、と考える保護者は多いですよね。また、ファッション業界は華やかで、デザイナーとして大成すれば凄いけれど、そうでないと食べていけないのではというという心配をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。ジョブ型の働き方が広がっている今、業界よりも、プロとしてのスキルや資質・能力を伸ばすことがキャリア形成において求められています。業種で判断をするのではなく、どのような社会で活かせる力を身につけられるのかに注目すべきです。学費の高いアメリカでは、まずコンピューターサイエンスや仕事に直結する専門的スキルを身につけ、必要であれば後で大学に通おうという人も増えています。じっくりと新卒を育成する企業が減り即戦力が求められている中、今すぐ社会で使えるスキルを専門校で身につけるという進路も有効な選択ではないでしょうか?大学レベルの学びの選択肢もインターネットの普及で広がっている今、高校卒業後に大学に行かなければチャンスを逃してしまうと考える必要もないと思います」

意味のある学びは、
学生が「主体的に学びたい」
「楽しい」状態でこそ得られる

キャリア形成につながる学びとはどのようなものでしょうか?

「質の高い学びを積み重ねることで意味のある深い学びが得られます。残念ながら、日本の大学の多くの授業はまだまだ講義型で、大教室に100人ほどいれて一方的に教えるスタイルが多いです。リベラルアーツ教育の思想には共感しますが、18歳、19歳で、哲学や歴史の深い部分に触れていなくて、講義型の授業を通じて果たしてリベラルアーツをモノにできるのか?という疑問はあります。
意味のある学びを積み重ねるには、本人が楽しみながら、主体的に学ぶ状態を持続できるることが大切です。大学で6コマ受けるとして、果たして何クラスそういうクラスがあるのか?とりあえず成績が取れればOKという学校歴のための授業を4年間積み重ねた場合、大学を出て最初の5年くらいは学校歴が評価されるかもしれませんが、30代でのキャリア形成にはあまり役立たないでしょう。
自ら学びへのモチベーションが高く経済や哲学を本気で学ぶなら、大学はいい投資ですが、とりあえず卒業できればいいという感じであれば、アニメーション、コンピュータグラフィックス、ファッションなど、本人が没入できる分野でなおかつ社会から求められているスキルを身につけるほうが、長い目で見たキャリア形成には活きてくると思います。
一流のプロ講師と切磋琢磨することで、自分に足りないところが見えてきます。自ら必要な学びに気づいたときに、学び足していくほうが質の高い学びの経験が得られるのです。実際、私も今オンラインで教育大学院に通っていますが、これも必要であることが分かって入学したので、とても高いモチベーションで取り組めています。現在は学校歴と学びの質は必ずしも連動していませんが、今後見直されてくると思います」

近い年齢で視座が高い
仲間の存在は重要

同じ業界を目指す仲間は重要性についてはいかがでしょうか。

「仲間の存在は質の高い学びには欠かせません。プロ講師がロールモデル的役割だとすれば、同僚や同級生はお互いを切磋琢磨して引き上げる仲間だと思います。
私は、アメリカのコミュニティカレッジと、アイビーリーグのトップビジネススクールと両方に在籍しましたが、生徒の教養レベルと関心の幅が相当違う状況を目の当たりにしました。トップビジネススクールでは、20代から『ノブレス・オブリージュ※1』を意識している生徒もいました。近い年齢で、圧倒的に視座が高い人が回りにいると、自分自身も引き上げてもらい伸びるキッカケにもなります」

互いの尊厳、
多様性が認められてこそ、

深い探求に繋がる

これからの教育の在り方について、理想はどのようなものでしょうか。

「現在の教育の全てが悪い訳では全くありません。ただ、時代によって求められる学びは変わります。戦後、日本の教育機関は、工業化社会の屋台骨を支える人材輩出を担ってきました。頑張って真面目に仕事をする人を輩出することで、飛躍的な復興をとげ、先進国の仲間入りを果たしました。しかし、今後、人工知能を始め、インターネットを土台とした情報技術がありとあらゆる業界に埋め込まれていく中で、過去の改善だけではなく、飛躍的なイノベーションが業界地図を塗り替える時代に突入しています。そうなってくると、過去の成功体験が足を引っ張ることも多く、与えられたことを頑張れば結果が出るわけではありません。
これからの教育では、過去の叡智を学びながらも批判的な思考や多様な意見を取り入れることで、新たな知識や知恵を生み出すイノベーターを育てていく必要があります。拙書では『クリエイティブリーダー』と表現しており、仲間と創造的な仕事ができる人材像と、そういった人材を育てるために必要な教育について紹介しています。
世界のトップ企業となったグーグルが社員に求めることのひとつに『協働して仕事ができる力』があります。各個人が持っている賜物があるので、その良さを最大限に引き出して、高いパフォーマンスを出す仕事場を作れるかが社員に求められる力であることがわかります。グーグルのように、心理的安全性が高く多様な社員が協働しやすいフィアレスオーガニゼーション※2は、高パフォーマンス組織に繋がると言われています。お互いの尊厳、多様性が認め合えていてこそ深い探求に繋がります。日本の学校教育機関もフィアレスオーガニゼーションを目指すべきです。生徒さんの1+1が3になる学びの場を作れるかどうかは、学びの質に大きく影響します。これが複利になって積み重なっていくと、3年、5年でものすごい違いになります」

好きという気持ちを
大切にしてほしい

好きなことを追求していこうとする人たちに、激励のメッセージをお願いします。

「学びたい、好きなことがあることはとても幸せなこと。好きという気持ちを大切にしてほしいです。好きなことの解像度を上げるために、バンタンは支援になると思います。今『なんとなく』アニメが好き、ファッションが好き、といった憧れだと思うので、ファッション業界のどの部分が好きなのか?自分がパフォーマンスを出せるのはどういった部分だと思うのか、好きなことの“解像度”をあげることがすごく大切です。
ファッション業界でも、デザイナー、マーチャンダイザーなど色んな職種がありますよね。ロールモデルから刺激を得て、自分の手を動かすことで『自分はパタンナーに向いてない』などが分かると思います。嫌いなことを知ることも大事です。食わず嫌いはよくないですが、違和感にも正直になることで、解像度が上がります。寝なくてもやりたいことがあり、挑戦の機会が与えられている、そういう場があることはすごくチャンスだと思います」

※1……ノブレス・オブリージュ:社会的地位がある人ほど、果たすべき義務や社会貢献活動をするという道徳観
※2……フランスに起源する、貴族に課せられた義務を意味する言葉。「人の上に立ち権力を持つ者には、その代価とし果たすべき責任がある」という意味。
※3……心理的に安全な組織。

PROFILE

竹村詠美

一般社団法人 FutureEdu 代表理事、一般社団法人 Learn by Creation 代表理事、Peatix.com 共同創業者、Most Likely to Succeed 日本アンバサダー

マッキンゼー米国本社や、日本のアマゾンやディズニーなど外資系7社を経て、2011年にPeatix.com を共同創業。2016年以来グローバルなビジネス経験を生かした教育活動に取り組み、教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」上映・対話会の普及、2日間に2500名が集った「創る」から学ぶ未来を考える祭典、「Learn by Creation」主催や研修も行う。『新エリート教育 ~ 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版)を7月23日に上梓。 クリエイティブリーダーを育むための、学習者中心の学びやホール・チャイルドを育む環境をテーマに活動中。総務省情報通信審議会委員など公職も務める。経済産業省の未来の教室での研修採択実績。講演や執筆も多数。

慶應義塾大学経済学部卒 | ペンシルバニア大学ウォートンビジネススクール修士卒|ペンシルバニア大学国際ビジネス修士卒

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