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イタリア幼児教育実践家 石井 希代子さん

レッジョ・エミリアとの出会い
家政科出身で日本の伝統芸能などを学んだ後、カラーイメージコンサルタントとして資生堂の講座などを担当していましたが、より内面的な部分を学びたいと思い、色彩心理など心理学の世界を学ぶうちに人間形成のベースは子供にあるということに行き着きました。間接的な表現や、本音と建前がある大人と違い、ダイレクトに反応する子供の世界に興味を持ちました。

最初は元麻布のインターナショナル幼稚園で粘土や水彩、ワイヤーなどの素材を用いて自由に創作できるアトリエを主宰したり、幼稚園でアート教育を5年程教えていました。自由な表現というのは子供の創造性を引き出し、伸ばすというのがわかった一方、何をやっていいかわからない子供もいてそこから「自由なだけじゃダメなんだ」と思っていたところ、2001年ワタリウム美術館の「レッジョ・エミリア 子供たちの100の言葉展」という展覧会に出会いました。子供たちの表現方法や色彩の豊かさも素晴らしかったのですが、先生たちが結果でなく子供たちの発想の転換の過程など、制作プロセスを観察してそれらをドキュメンテーションという形で提示していたことに感銘を受けました。そこで子供たちに対するアプローチがあるこの教育法を勉強したいと思ったんです。これがレッジョ・エミリアとの出会いでした。

DSC_0008_2.jpg「創造性のスイッチ」をつくる土壌づくり
ですが当時の日本にはレッジョ・エミリア教育について学べる場所がありませんでした。そんな状況下で「これからの子供たちに残せるものを今学ばなければ」という思いから準備をし、翌年4月にイタリアへ渡りました。イタリア語もわからず手探り状態でしたね。(笑) あるとき街で「レッジョ・チルドレン」という非営利団体の事務所を見つけて通い詰めました。スタッフとも親しくなり、何度も訪ねるうちにイタリア人向けの研修コースを受けさせてもらえることになり、ようやくレッジョ・アプローチの学びをスタートできました。「レッジョ・エミリア・アプローチ」というのはイタリアの地域の名前に由来し、地域の子供たち一人ひとりとの実践に基づいて作り上げられた教育法で、メソッドではないんです。ですから枠組みを日本に導入しても機能しません。その土地の人々や文化、背景などを体感し本質を理解した上で、そこにいる子どもたちに合わせてつくっていくものなんです。 そのためにはまず大人が様々な表現方法を体感しなくてはなりません。自ら考えることや、シンボリックな表現、ノンバーバルな表現を使いこなせるようになり、それらを他人と共有する場所で過ごすことによって言葉以外でもコミュニケーションがとれるようになります。まずそれを大人が体感し、自分の中に「創造性のスイッチ」を作ります。

今回、NPO法人子ども教育立国プラットフォームのコーディネートの元、担当させていただくことになったバンタンでのワークショップでは、この「創造性のスイッチ」を作ることを目的に様々なワークを実施します。そうして自分がイメージするものを見つけられるようになることがスタートとなります。それができさえすれば、自分が表現したいものを目標に努力できますが、そのイメージがないとどんな人も何をしていいかわからなくなります。私が他で講師を務めている指導者養成を目的とした講座などでは、この「創造性のスイッチ」が入れば次のステップへ進み、子供たちに合わせた様々なプロジェクトやその実施方法を考えていきます。ワークショップはそのための土壌づくりのようなものなんです。

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個をつくることが他との共鳴を産む
今回ワークショップを実施したバンタンの学生さんたちは「礼儀正しくて真面目な学生が多い」と感じました。みんなとても気持ちの良い挨拶をしてくれます。早い段階で社会に出るために専門性のある道を選んでバンタンに来ている学生さんたちなので、一般の高校生に比べてどの学生さんも自分の考えを持っていたり、しっかりしている印象を受けました。ただ、意見交換が苦手な印象も受けました。より良い学びにつなげるためにも、互いに意見をシェアして対話を経ることでさらに飛躍できる可能性も大きくなりますし、そうした意味でもバンタンがこういったワークショップを実施することは、これから特に大切なことだと感じます。


机に向かい講義を聞くことが多い日本の教育体系ですがこれからは「興味のあること・好きなことを見つけ、自ら学ぶ」というプロジェクト型、探求型のスタイルに変わっていくと思います。そうした学びのスタイルには、やはり創造性が必要なので今回バンタンでも創造性ワークショップを取り入れ始めたというのは、今後の学生さんたちの大きな飛躍につながると思います。例えば日本人は表層の完成された作品をアートと捉えがちですが、本来は作品ができるまでのコンセプトやプロセスがすごく大切で絵や音楽、映像など、どんなものでも内面的な何かを発信するものがアートなんです。子供のときにこうしたアートを体験していると、多面的な考え方を育み「創造性のスイッチ」が入りやすくなりますが、日本の教育にはこういうものが足りません。自分の思い描いたものを色んな角度から実現できる体験が増えれば自信にもつながりますから、特に幼い頃からこうした体験を重ねることが大切です。

他にも例えばレコールバンタンとバンタンデザイン研究所とのコラボレーションのように違った分野との組み合わせなど、自分と異なるものとの共同で何かを生み出せると認識してもらえたらそれは大きな発見になります。日本は個人主義の国ではないのでなかなか難しいところですが、他と関わるためにもまずは「自分」を育ててほしいです。誰かに何か言われると悪く受け止めがちですが、意見交換というのは何かをより良くしていく上でとても大切なことだと知ってほしいのです。たとえば、相反する意見で対立した時に、第三の新たな違う考えを創造して意見を融合させることでスムーズなコラボレーションもできます。バンタンのいろんなジャンルのスクールが持つ、それぞれのクリエイティブ力が重なり新たな力が生まれれば、さらなるバンタンの強みになりますね。


DSC_0045_2.jpgテーマのない中でこそ自分の声に気付く
人は色んなタイプの人がいます。例えば感情表現が苦手な人は、色彩をあまり上手に扱えないということがあります。他にも言葉に強い人や感覚的なデザインを作るのが上手な人など、色々なタイプの人がいるのでそれぞれに即したワークショップを実施します。そこでの様々なワークによって得意不得意が見えてきます。色彩や言葉では思うようにできなかったけど布を扱うとスムーズに表現できたという人もいます。木材一つで壮大なストーリーを作れた人もいました。人によって合う素材が異なるので、ワークショップを重ね誘発する素材をうまく見つけられると良いですね。

ワークショップの場で他の人の考え方や表現を見聞きし知ることも刺激になるので、みんなでシェアするというのは大切なことなんです。私は「何を描きましょう」ということは言いません。素材や色に触れる体験を重ねることで自分と他のものとの違いや関係性に気付いてもらうことが狙いです。「今日はこれをつくります」というテーマがない中で「自分はどんなイメージで何を表現したいのか」と考える力をつけることが大切なことなんです。

それまで信じてきたものを壊すこと
常に意識しているのは、色んな世代の人と交流することです。イメージのアップデート。様々な考えを知り、いつでも自分自身を壊しては変えていくというスタンスを、仕事上でも大切にしています。壊すことって誰でもすごく恐いと思うんです。自分がそれまで信じてきたものですから。でも他の人たちの声を聞いて自分を変えていかないと自分の声も誰にも届かないと思うんです。人を変えるんじゃなくて、自分を変える。色々な場所で問題とするものをその都度捉えてクリエイトするということは、イタリアでの影響もありますが、私自身昔からカラーコンサルタントや、子供の世界など様々な場所でやってきたことでした。そのときどきに自分をアップデートすることで、自分の人生をクリエイトすることになり、それが人生の楽しみにもなりました。人生そのものを創造的に生きるということでしょうか。まだまだ学ぶことは多いにあります。先人の知恵も素晴らしいですが、これからをつくる若い人たちの考えも大切なので、両者を融合させながら新しいことを創造していけるように、これからも探求していきます。

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