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NEPENTHES AMERICA INC.代表、 「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー 鈴木 大器氏


-始まりはたった3本のパンツ-
ニューヨークに住んでもう26年になります。1989年にまずボストンへ行き、翌年ニューヨークへ移った後、3年間サンフランシスコで過ごして再びニューヨークへ戻ってきました。当時、ソーホーに良い物件があるということで、店を開けるため拠点をニューヨークに構えることにしたんです。大失敗でしたけどね。(笑) その中で1999年に「ENGINEERED GARMENTS」を始めました。最初はパンツが3本、そんなとこからのスタートで、ブランド確立として良いイメージを抱いていましたが、難しかったですよ。そこから少しずつ卸をメインにやっていき、現在に至ります。

バンタンには2年間、居ました。その後、在学時から続けていた洋服の輸入販売店のアルバイトを経て、DCブランドに入りました。そこは結局半年で退職してアルバイト先へ戻り、トータルで8年くらいそこにはお世話になりました。そこで、今の会社の東京での社長をやっている清水と出会ったんです。その頃の僕らはただもうファッションが好きで、ファッション業界の一部として仕事ができるだけで楽しかったです。


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ENGINEERED GARMENTSを支える「バランス」と「ただ一人の目」-
うちのブランドは少し変わってるんですよ。一部では「カルト」って呼ばれてるんです。(笑) うちのブランドを好きだと言ってくれる人たちは少し変わっていて、ニッチな中のニッチな人たちが応援してくれるお陰でなんとか持っているようなものです。

ブランドとして常々気をつけているのは「バランス」です。さじ加減ですね。それが一番大事だと自分は思っています。好きなものは沢山あるけど、ただ好きなモノを作ればいいわけではない。「好き」をどのくらいの分量にするか、いわゆるそのバランスが大事なんです。色・柄にしてもそうだし、長さにしても、全てのことがそうです。全く新しいものを創り出すことは素晴らしいですが、それはきっとアーティストの人たちであって、僕らとは異なります。僕らがやっているデザインというものは、全く新しい創造というよりも、元々あるディテールや、古いものなど既存のものの焼き直しだと考えています。なのでそのバランスが最も大事なんです。デザイナーというよりも、そうしたさじ加減ができる「コーディネーター」、「アレンジャー」のような「調整する能力」が大事かもしれませんね。

僕にはひとつのポリシーがあって、デザインに関しては軸が複数の人間になるとまとまらないと思っています。僕は優柔不断なので、一人でやっても結局まとまらないんですが。(笑) 複数でやると揉めるので、もし誰かやりたい人がいれば、その人に全てを任せて、常に一人の目で見るスタイルは継続していくつもりです。一方で、一人では全てをできないとも思っています。僕が今までやってこられたのは、理解して共感してくれる仲間、良い人たちに巡り会えて支えてもらってきたお陰です。それが一番ラッキーだったんじゃないかなとも思いますね。


suzuki_2_2.jpg-顧客の期待を裏切り続けることが、続く秘訣-
今、僕らのオフィスがあるここ西38丁目はニューヨークでも特殊な場所で、古くからの洋服工場街なんです。 観光客が来るようなところではありませんが、今でも洋服作りのほとんどが揃う環境が残っています。ここでずっと変わらずにやり続けたいですね。いつまでできるかはわかりませんが、そのためにも変わらずにファンの期待を裏切り続けていきたいです。「期待に応える」ということはイコール「期待を裏切る」ということと捉えています。顧客が期待していることを上手く交わしてやっていくことが、ファンをキープしていくことになります。良い意味でのサプライズです。予想されるような同じことをずっとやっていると飽きられるし、自分も飽きる。だからそこもさじ加減です。予想されないことをする。

僕の考えでは「良い洋服」には2種類あるんです。いつもみんなに言っていることですが「良い生地を使った良い縫製の『良い洋服』は世の中に溢れている」。いわゆるラグジュアリーブランドはそうした良い洋服を作っていて、それらはお金を出せば誰でも買えます。一方で僕らが考える「魅力ある服」という意味での「良い洋服」というのはボロボロの生地でも、縫製が悪くても、でもすごく形がカッコ良いとか、そうした特出する部分があれば、人は買います。僕も買います。お金を持っている安定思考の人は違うんでしょうけど、そうした人たちが絶対に手が出せないものを僕らは「良い洋服」だと考えて、創っています。お金を出せば、良い洋服はいくらでも作れますが、そうした洋服はたぶん一番つまらない、という発想の元僕らはやっているので、この価値観を根底として「一点でも抜きん出た部分があるものを創る」ことを目指しています。

ヨレヨレのTシャツや、ボロボロのジーパンを今どこのメーカーも出していますよね。それらと比較したときに、リーバイスのジーパンを履き続けてボロボロになったものとどちらが格好良いか、というと明白かと。いくらお金を出しても「絶対に作れないもの」がそれらです。例えば、10年着てきたシャツは、高価な良い洋服には代え難い、という価値観を大切にしています。そういう意味で、両方とも「良い洋服」なんですよ。この価値観を理解してもらえるように続けていけたらと思っています。


suzuki_3_2.jpg-ニューヨークで学んだ「オリジナリティ」と「運の強さ」を持つこと-
僕らはレッドオーシャンではない場所で服作りをしているので、きっと「良い洋服」の価値観が違うんです。戦略とかも考えるタイプではないし、金銭感覚も僕はダメです。(笑) そんな中で、ただひとつこの業界で生き残っていくことを考えたときに、みんなと同じことをしても残っていけないと思ったんです。ラグジュアリーブランドには勝てないし、良い生地も買えない、良い工場も持てない。じゃあ、そうしたラグジュアリーブランドが逆立ちしてもできなくて、俺にできることは何か?と考えたときに、さっきのコンセプトに行き着いたんです。他の誰にもできないことをやることが大事です。

これだけ長くニューヨークにいると色んな人を見てきました。ニューヨークなんてアーティストばかりで、才能ある奴も沢山いて、みんな一生懸命やっているのに、結局それぞれの国に帰ってしまう人も沢山います。彼らを見て「ニューヨークに残れる人には何があり、逆に何がダメだったのか」と考えると、それはやはり「オリジナリティ」と「運の強さ」でした。彼らにしかできない何かがあると同時に、それを認められる運の強さも必要です。ただ技術だけがあってもダメで、逆に技術なんかダメでも自分なりの独特の世界をつくれたら、それだけで上手くいく。そういうことを、僕はこの街で身体で覚えてきました。こういうことを、若い人たちにサラッと話せたら良いんですが、実際に多人数の前になるとダメですね。上手く話せないのでこの場で伝われば嬉しいです。(笑)

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