パティシエ 鍋田幸宏氏インタビュー

そもそも“続ける”ということは簡単なことではないので、50年やってきたというのは単純にすごいです。
僕は23年間パティシエとして続けてきましたが、その倍というのはちょっと想像できないですね。

僕はいま、講師としてレコールバンタンに関わっていますが、時代によって学生が変化するなかで、教え方もだんだん変わってきています。実際の社会や現場は本当に厳しい環境です。特に食の分野におけるお菓子作りは、一見華やかに見えますけど、実際は地味な作業が多いし派手なことは本当に少ない。自分が本当にやりたい、好きなことではない限り、お菓子作りの業界でやっていくことは難しいと思います。お菓子を学校でうまく作れる人と、実際の社会で活躍する人は決してイコールではありません。社会においては、いかに自分で考えて行動ができるかどうか、またどれだけ気がきいて任された仕事に責任を持てるかどうかが大切です。僕は、お菓子作りを教えるというよりは、お菓子作りを通して仕事に取り組む姿勢や、どんな現場環境でも通用するような人材を育てることに重点を置いて教育を行うようにしています。

どの職種でも同じようなことが言えると思いますが、一旦パティシエとして就職したり、雇用された講師として教える立場に就いたりしてしまうと、徐々に社会と自分との距離感が分からなくなってしまいます。僕はそうやって社会から遅れていってしまう怖さがあったので、当時は様々なコンクールに参加して知らないパティシエと競い合うことで、業界の中での自分のレベルを知ろうと考えていました。コンクールで勝つことを目標に据えることで、自分の技術を高めることにもつながりますし、それは結果として今でも本当に自分はこのままでいいのかっていう危機感を持つことにもつながっています。2011年には、世界最高峰と言われるお菓子のコンクール「クープ・ド・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で日本代表のキプテンとして参加させていただきましたが、日本だけでなく世界と競えたことはとても貴重な経験でした。

お菓子作りは、自分を表現するための方法の一つだと思います。自分が一生懸命試行錯誤して作ったお菓子を食べてもらって美味しいって言ってもらえたり、色々なところで評価をいただけたりすることって純粋に嬉しいですよね。ただ、お菓子は人間の味覚を相手にするので、例えばお腹が空いているときに食べるのか、食後のデザートなのか、時間や場所、感情によって変わるし、人によって感じ方自体が全然違います。万人が美味しいって言うものなんて存在しないけど、やっぱり多くの人に美味しいって言ってもらえるものを作りたい。そのためにも、常に技術を向上させていく必要があります。

これからの業界を目指す学生たちにも、やらされている仕事ではなく、自分が好きでやっている仕事だという意識を持って、どんなに苦労することでも諦めずに継続できる人になってほしいです。バンタンからもっとお菓子をうまく作りたい、もっと技術を身につけたい、もっと上を目指したいという向上心を持った人材が育っていってくれることを期待しています。